ムッシュ サン=テグジュペリと賢治先生

さて、今からこちらに記すことは、
 
サン=テグジュペリはやはりムッシュで、
宮沢賢治はやはり賢治先生だった、
というひぐの体感のお話です。
 
体感……?
感覚……?
イメージ……?
妄想……?
夢……?
ピッタリとくる言葉が見つかりません。
しかし、わたしとしては、とてもとても、実感が確かにある体験でした。
 
わたしにとって戯曲を書くということは、まだここにはない世界を旅するみたいなものでござます。旅先で見聞きしたことをひたすら書き留める、ということでございましょうか。
それは脳内へのダイブなのかも知れません。
 
さてそれが、脚色になったとしたらどうでしょう。
オリジナルをひたすら読みます。
読みます。
読みます。
読みます。
読みます。
どっぷり読んで感染したらダイブします。
オリジナルの文字の中へ。
 
「星の王子さま」を書いている時に、驚いたことがあったのです。
 
サン=テグジュペリはめっちゃ教えてくれる。昔は分からなかったこと、気づかなかったこと、気にも留めなかった大事なこと。全部全部、教えてくれる。めっちゃ優しい。

わたしが大人になったから気づいたことなのかもしれないけれど、わたしの体感としては、 サン=テグジュペリがそばにいて、細かく細かく、分からないことを丁寧に教えてくれている、
ように感じたわけなのであります。
 
そして、ハッとする。
 
そうだ……!
彼は……サン=テグジュペリは、フランス人だ……!
ムッシュ サン=テグジュペリ!
さすがフランス人だけに、トレビアンばっかり言ってくれている気がした。
 
もう今この時点でナニ言ってんだと思われた方、申し訳ない。
だけど本当に、ムッシュ サン=テグジュペリはなんでも教えてくれて、
分からないと思っていたことが、なにもかも謎が解けたと感じた。
 
そうして今回です。
「銀河鉄道の夜」
宮沢賢治 でございます。
 
賢治先生……

本を開く。
ひたすら読む。
そうしてパソコンに向かう。
前回と同じように。
 
これを、なんと言えばいいんでしょうか。
きっとわたしは期待をしていたんだと思う。
ムッシュ サン=テグジュペリのように、
なにかを囁いてくれたり、教えてくれたりするんじゃないだろうかと。
 
じっと指を止めて待つ。
しかし、なにも教えてはくれない。
 
え、マジ? 賢治先生。 

それどころか。
じっと黙ってる。
ぐっと黙ってる。
もう絶対何にも言ってくれない。
口がもうへの字。
正座して向かい合って座ってるみたい。
膝突き合わせて。
みじろぎひとつできず。
こっちを見てもくれない感じ。
 
「け、賢治先生……あのう……これって、どういう意味でしょうか……」
 
恐る恐る、聞いてみる。

全然、沈黙。
だんまり。
逆にムカつかれたかもしれない、とか不安に駆られる。
じっと黙って。
もう何日も黙ってる。
無言ってこんなに苦しいのかと思うくらいじっと黙ってぐっと。
 
「こ、こんな感じでどうでしょうか……? だめ? あ、じゃあ、これは? だめ?」

何度も何度も問いかけても無言で、わたしの心は折れそうになる。脚色なんかするんじゃなくて、この小説をそのまま朗読するのが賢治先生の世界をなによりも表せられるんじゃないかと、もう、お手上げですと言いたくなる。
 
賢治先生はじっと押し黙っていた。 

そしてわたしも、もうじっと黙った。質問したい色んなこと、分からないたくさんのこと、どう受け止めればいいのかと戸惑うこと、なにもかも、もうぐっと黙ってみた。
そうして何日も何日も経って。
問いかけることはもうしなくなって、静かに黙るだけ。
静かに向かい合って。
静かに息をする。
もう息してるだけでいいとさえ思う。

いつしか、

あれ。
 
今、めっちゃ賢治先生と呼吸合ってない?
喋ってないし黙ったまんまだけど。
なんだろうこれは。
じっとぐっと黙ったままなんだけど。
なんだろう、言葉は一切届かないのに、

もしかしてこういうことなのかもしれない……と、わたしの指は動き出す。
 
ムッシュ サン=テグジュペリのように言葉で教えてもらうというよりも、
おんなじ呼吸をしていた感じ。
言葉はなかった。
だけど流れてくる。
 
書いた人によって、こんなにも聞き取り方が違うんだなぁと、驚いた。
ナニを言ってんだ、と思われた方、ほんと申し訳ない。
だけど「星の王子さま」も「銀河鉄道ノ夜」も、
とても面白い体験だったのです。

■公演スケジュール
2023年
8月11日(金・祝)~8月13日(日)古屋 呂敏・三浦 涼介
8月18日(金)~8月20日(日)壮 一帆・貫地谷 しほり
8月25日(金)~8月27日(日)TAKE(Skoop On Somebody)・島袋 寛子
1週変わり公演4公演×3週間 全12公演
 
■スタッフ
演出|小見山 佳典
脚本・作詞|樋口 ミユ
音楽|澁江 夏奈
演奏|呼野 阿美香
歌唱指導協力|五東 由衣
ヘアメイク|松元 未絵
主催:株式会社フェイス
制作協力:株式会社アミューズ
 
■チケット
8,500円(全席指定・税込)  一般発売日:2023年7月3日(月)
 

 

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