子どものころ、捨て猫を拾ってばかりだった。
母親に、「自分で面倒が見れるなら」と言われたけれど、
本当の本当に面倒を見ていたのはもちろん母だった。
ポインセチアの真っ赤を見て心トキメかせて鉢植えを買ったけれど、
まぁものの見事にすぐさま枯らした。
一応新入社員で会社に入社してはみたけれど、
職種がどうとかそんなことを考えもせず、
なんか会社というところに入るのが普通で当たり前で、
なんかそういうことらしい、
就職活動とかしなきゃいけないもんなんだ。
みたいな。
半年後に「来月、演劇の本番があるんでやめます」と言ったら、上司はぽかんとしていた。
だいたい決められたことができない。
だいたい当たり前ができない。
だいたい当たり前が実はよくわかっていないし、
だいたい、まぁみんなそうみたいだから、そうなんだろう……
と、よく分からないまま、なんか、なんとなく生きてしまった20代。
考えることを演劇にしか使っていなくて。
演劇だけが続いて。
創作ばかり考えて。
それ以外、なにもかもだいたいめちゃくちゃ。
それ以外、なんにも考えることはなく。
ご飯を食べるのも面倒だった。
なんでご飯のことを考えなくちゃいけないんだろう。
あるものを口に入れたし、
なければお腹が空いたまま寝た。
打ち上げのお酒の席がよく分からなくて帰ろうとしたら、
友人の劇作家に「30分は座っていろ」と怒られた。
どうして。もう公演は終わっているのに。と、分からなかった。
自分の、なにが欠けていて、こんな人間になっているのか、
本当に分からなかった。
そんなわたしが、
食べ物のなにが大切かを理解できたのでご飯が作れるようになった。
打ち上げも居られるようになった。
そして草花を枯らさずに育てられるようになった。 母の日にむけて、出口ここねさんの計画は、
タージマッジーを作って母にプレゼントするという。
た、たーじ、ん……?
「魔法の庭ものがたりータッジーマッジーと三人の魔女」
あんびるやすこ先生の素敵なお話に影響を受けたと思われる。
わかるわぁ、魔女とか魔法とかに惹かれるの。
ハーブで作った小さなブーケだそうだ。
魔除けにもなるという。
苗から育てて作るのだという。。。
母にバレないように。。。
というわけで、わたしの仕事部屋にハーブたちが置かれるのであった。
そしてなぜかわたしが世話をするという。。。
しかしわたしはずっと大阪にいるわけではないので、
わたしがどこかに移動する時には、
ハーブの水やりなどをここねさんに頼む、
あれ?
おい、
待て、
なにかが違うんじゃないか?
と、わたしはここねさんに詰め寄る。
しかし。
子どものわたしはすぐにポインセチアを枯らした。
水やりよりも遊びに行ってしまったのだ。
今のわたしは、仕事をしていても水やりを忘れない。
草花を見て思う。
薔薇がある朝突然、百合になったりしない。
土に蒔かれた種はすぐに芽を出さないけれど、いつしか双葉を出す。
そんで、その草花に本当に必要な温度と水と太陽がそろうと、
伸びていく。
初めの種からは想像もつかない茎や葉っぱをつける。
それから茎や葉っぱからまた想像がつかない色の花を咲かせたりする。
種から考えると、魔法のように変化する。
パッと変わったんじゃない。
育ったんだ。
薔薇が百合にはならないけれど、小さな種が薔薇になる。
枯らしてしまった子どものころから、
枯らさないように成長したんだなぁ。
わたしのなにかが欠けていたわけではなくて、
そもそも備わっていたのが、
長い長い時間をかけて、
やっと顔を見せたんだ、と思った。
そしてここねさんに詰め寄ってからは、彼女は水やりを忘れない。
なんとまぁ成長の早いこと。
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