一関のパンフレット『マハズレ』座談会


『マハズレ』 岩手一関公演にむけて。
 

佐々木 岩手に向かって稽古をしている最中なんだけど、どう?

樋口 一番の大きな変化は、音です。ね、桜井くん。

桜井 そですね。

黒田 1曲目の音楽を創るコンセプトは“体温のない音”って言ってたよね?

桜井 初めはそう思ってた。 “真史さん完全ロボット化作戦”を考えていたけど、ノイズとか、エラー音とかだけでは長い曲は厳しいなと思って、今は素材をもっと増やして。

樋口 今日の稽古は、真史さんの動きを見ながら音を操作してくれてたよね?

桜井 それはやりたいなと思っていて。カチっと押してただ再生するだけじゃなくて、その場でジャムする感じ。(※ジャムセッション……即興的に演奏すること)

佐々木 マハズレの音楽をつくるのにコツとかある? 

桜井 作っている時に、自分が気持ち良くならないようにしたかな。解放に向かわない。俺、ひとりで創っている時は、エモいのとか好きなんだけど、

みんな エモい!? 

黒田 エモいって何!?

樋口 キモい、じゃなくて、エモいって? エモーショナルなもの?

佐々木 ああ、エモいって言葉あるね。

桜井 バイトの帰り道にさ、川沿い走りながら聞いて「ああ、いい曲だなぁ」っていう感じの曲を創りたくなっちゃう。でも今回はそれはしない。

黒田 それはなんで?

桜井 怖いから。

黒田 え、私たちが?

桜井 作品が……というか、作品の中の真史さんと琢さんが。だから気持ちいい音になると、2人をぶっ壊してしまうから。

樋口 エモいものって、具体的には?

桜井 コード感かな。日本の演歌とか、ポップスとか、感情が分かり易いものかな。

樋口 作品の中の二人が怖い、っていうのをもう少し具体的に言うと?

桜井 シリアス……ていうのかな、何をしだしてもおかしくない精神状態にありそう。見た目普通にしてるけれど、急にお姉ちゃんがつかつか歩いてきて、ぶんなぐるとかしても、いつ何が起きてもおかしくないような怖さ。ちょっとキレちゃっている感じ。

樋口 それを、音で再現している感覚?

桜井 そう、つまりそれが“体温のない音楽” キレちゃってる。人間は常識があったら、例えばこういうことが起これば普通こう返す、社会性っていうか、そういうものとは別のところにいる2人、だから、怖い。

樋口 2人がやっていることを見て、それを受けて音を創ったわけだ。

桜井 それは、もちろん、そう。

佐々木 俺のこの音を聞け、とかない?

桜井 1曲目はね、ジャムセッションを絶対やったほうがいいと思う。

佐々木 俺と真史もジャムってるしね。決め事はあるけれど、その場で起こっていることを一番大事にしてるから。

樋口 音が違うことによって、真史さん自身はなにか変化があるもの?

黒田 音を聞いてこうしよう、とかある……けど、音を都合よく聞いてる感じかな。常に聞いてはいるけれど、聞こえてくる時があって、

樋口 ダイレクトに入って来た時にはその音に乗るってこと?

黒田 音に乗るのはよろしくないなと。動きを音に乗せると、癖が出たり、雑になったり、イメージとか繊細さが飛んで、リズムに合せてしまう、追い立てられている感じになってしまうかな。だから今日の稽古みたいに、桜井くんとセッションするのはすごくいい。

樋口 不思議やなと思うのは、真史さんを見て桜井くんは音を出すよね。真史さんの動きに影響されて出されている音を、今度は影響を与えた真史さんがそれを使って踊ったりする。その動きを観てまた桜井くんが音を出して、また真史さんが、

佐々木 卵が先かニワトリが先か、みたい。あのね、俺、松山公演でさ、お客さんがはいって作品って本当に完成だなって思った。

黒田 お客さんの感受性が豊かで、あたしがどんな情報を使って踊っても、観ている人のほうがお姉ちゃんのイメージを膨らましてくれるから、今回は姉の心理的感情なものだけじゃなくて、いろんなイメージを取り込んで踊ってる。風とか水とか植物の動きのイメージを取り入れたり。

樋口 観る人がなにを思うかは、指定も強制もできひんもんな。

佐々木 どう見てもらっても、間違いじゃないしね。

樋口 ああ、牛乳飲みたくなったでもいい。

佐々木 戦争ってだめだなぁとかでもいい。あ、一関公演には僕の家族が来ると思う。どう見るのかな。

樋口 お姉ちゃんは来る?

黒田 話聞いてみたいな。琢の家族が見てくれてどう思うのかっていうのを聞いて、今後琢が描く戯曲に入れ込んだらいいと思う。

樋口 皆さん、お忘れかも知れませんが、この公演の完成は、琢さんが台本をかき上げて完成になるんでございます。

桜井 そうなんだ。

佐々木 はい。そうなんです! 乞うご期待!

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